La Charrette 日本語訳

仏文学

PDF版もあります! PDFファイルで閲覧する

荷車

 ラルティゴは、ついに仕事にとりかかることにした。彼は石鹸が入っていた大きな箱を買った。その食料品屋とは仲が良かったので、たったの8スー(当時の5サンチームに相当)で売ってくれた。それから車大工に木製の小さな丸い車輪を4つ作ってもらった。車大工は、お金は要らないと言った。車輪のできはよくなかったが、ちゃんと回った。ラルティゴは車輪と木箱を組み立て、それから(かじ)(ぼう)の代わりに横向きに木を付けて十字架の形になった棒を加えた。すべての工程が終わると、1台の荷車が出来上がった。

 しかし彼は大きな過ちを犯した。それは、荷車の完成までに子どもたちを待たせすぎてしまったことだ。作り始めてすぐの頃、彼がそのことを話すと、長女のジュリーと長男のエマニュエルは単に、弟と妹を乗せられる立派な荷車ができるんだと思うくらいだった。

 けれども1か月も待たされたので、その時間で荷車があったらできることは全部想像してしまった。2人は小さな弟と妹を腕に抱えるたび、荷車があったら乗せてあげられるのにと思った。家の近くで彼らを見守るたび、荷車があったら街の外れまで連れて行ってそこで見守ってあげられるのにと思った。彼らにとって、毎週木曜日(当時は学校が休み)と日曜日は1日がとても長く、物足りない感じがした。荷車には弟や妹だけでなく、他にもいろいろなものを積むことができる。おもちゃや4時のおやつ、それから水やワインのビンを運んだり、あとは遠くへ行ったり、お出かけしたりもできる。家族だけである必要もない。友だちも連れていける。ブーテ家のエマという子とルイという子に相談したところ、こんなふうに言われた。

「そんなことならママに2スーずつお願いしておいたのに」

 そうして荷車が完成した次の日の木曜日、街に夜明けがやってきたとき、それはまるで、そのときまで彼らの世界を閉ざしていた重たい扉が開かれ通ることを許されたかのようだった。彼らは前日からこの大きなイベントに備えて準備を始めていた。ジュリーとエマニュエルは2人で、おつかい用のお金から3スーを貯金していた。その日の朝、彼らは親に見つからずにパン半分、チーズ1個、洋ナシとリンゴを何個も、そして1本のソーセージをうまく手に入れた。ブーテ家のエマはポケットにバターを忍ばせていった。彼女の弟は途中で茹でられるとでも思ったのか、じゃがいもまで盗んできた。

 彼らは9時に出発した。2歳のヴィクトルと1歳4か月のアリスのちびっ子2人を、荷車の中で向かい合うようにして袋の上に座らせた。母親が言う。

「11時までには戻ってくるんだよ。あと、溝には特に気をつけてね」

 子どもたちは適当に聞き流した。

 2人の男の子、エマニュエルとブーテ家のルイは梶棒の両脇に立って、その横棒を手でつかんだ。2人の女の子、ジュリーとブーテ家のエマは、自分たちが何もしていないのに荷車が進んでいくのが嫌で、思い切り腰を曲げて後ろから押しながら歩いた。車輪は大きな音を立ててまわり、小石があるたびに揺られ、街道に出ると踊るように弾んだ。ちびっ子たちはそれを遊びだと思って、不安がることもなく笑っていた。

 彼らは町の主要な住人に出会った。オリヴィエさんの犬である。この犬はいたるところに現れるのだ。荷車に近づくとまずはそのにおいを嗅ぎ、それから6人全員を見つめて友情の証に小さく吠えた。まるで仲間に入れてほしいと言っているかのようだ。子どもたちは怖がらずに思い切り笑い、とても誇らしい気持ちになった。

しかし男の子たちは、追い払うために小石を集めて投げつける羽目になった。

はじめのうちは、ずっと歩いていた。けれども街道は広いし、この道は知っていたので、彼らは溝と溝の間を恐れることなく、坂道の傾斜に任せて下った。女の子たちは結局、車を押すのをやめてしまって、真剣な面持ちで歩きながら景色を眺めた。彼女たちは梶棒を引く役目をやりたかったのだが、男の子たちは自身の力を意識してか、何度言っても聞いてくれなかった。

 キャトルムーランの十字路にたどり着くと、初めて子どもたちは自分たちがどんな場所にいるのかわかった。そのときまで幸福の国とも呼べるような場所の中を歩き回っていて、彼らはあることにばかり注意が向いていた。それは、そこで暮らしていて幸せだということである。キャトルムーランの十字路には、レストラン付きの宿屋があった。それを見ると、子どもたちはそれまで感じていた喜びに加え、のどが渇くことの喜びを感じた。

 ブーテ家のエマとルイは嘘をついていたわけではなかった。彼らは2人で、4スー持っていた。エマニュエルとジュリーの3スーとあわせれば、6人全員で7スーに及ぶ財産を手にしていることになる。

 彼らは宿屋へ入った。5スーと引き換えに、1リットルのワインを手に入れたが、グラスを持ってくるのを忘れていたのでボトルに口をつけて飲んだ。ちびっ子たちものどが渇いたから、他の子たちの真似をした。ワインは口の両側からこぼれ、前掛けに垂れた。彼らはしばらく笑っていた。

 子どもたちはそれからまた出発した。本当の冒険が始まるのはここからだった。彼らのうちのだれも、一度として、キャトルムーランの十字路より先に行ったことはなかった。そういうわけで、キャトルムーランの十字路から、新しい、そして感激するに値する世界が始まるのであった。

 彼らが発見したたくさんのものの中には、空に浮かぶ美しい白い雲がラクダの形をしているのもあった。それから野原の近くを通りかかった。そこに生えている植物は、当然この子たちの町の畑に生えているありふれたものではなかった。1人は米だと言い、別の子はアブラナだと言い、また別の子は麻だと言い、さらにまた別の子はキクイモだと言った。太陽はよく照っていて、その輝きは永遠にちがいないと思うほどだった。時間というものは存在していなかった。街道を歩くのにうんざりすると、彼らは道を逸れて小さな野原に入った。こうして導かれていくとほとんどすぐに、これ以上ないほど美しい草原にたどり着いた。下には小川が流れている。茂みが陰りを作っている。あまりの美しさに子どもたちは口々にこう言った。

「ご飯を食べるならここにしよう」

 彼らは草の上に座った。ちびっ子たちは自分たちで荷車から降りたがった。

 子どもたちはまずバターを取り出し、それで見事なタルティーヌ(薄切りのパン)を6つ作った。彼らはしかし、1つ困ったことがあった。というのも、塩を持ってくるのを忘れてしまった。でもしょうがない! このバターだってバターのうち、つまり食べられるものの中で最高のものの1つなんだから。

 彼らはそれからソーセージ、チーズ、そしてリンゴ、最後に洋ナシという順に食べた。それでも彼らにはワインが残っていた。ボトルを次から次へと回し飲みした。ちびっ子たちは口をつけてうまく飲むことができなかった。ジュリーは自分の手のひらにワインを注いで、それを吸って飲ませた。まだあと2スー持っていたので、近所にキャンディが買える食料品屋があればよかったのにと思った。

 ただし、ちびっ子たちはとても大人しかった。彼らは食べ終わるとすぐ、草の上で眠ってしまった。うつ伏せに。大きい子たちはひとまず靴と靴下を脱いだ。まずは足を洗い、それから小川の中をあちこち歩き回った。男の子たちはズボンを脱ぎたかったが、女の子たちが強く反対したので、その足のほうをまくるだけにした。彼らの唯一の後悔は、糸と針を持ってこなかったことだった。なぜなら木の枝とあわせて釣竿を作り、いくらか魚を捕まえられただろうから。

 彼らが遊び疲れた頃、ちびっ子たちはまだ眠っていたので、ある考えが浮かんだ。彼らはちびっ子たちのもとに集まり、その子たちを囲み、その周りで四角になって一緒に眠った。幸せなひと時だった。

 目が覚めるとびっくりした。こんなことは本当に、だれも予想していなかった。太陽は気にしていないうちに空を巡っていた。日はとっくに低く沈み、遅い時間に違いなかった。それにワインをそのまま飲んだせいで少し頭が痛かった。彼らは先に起き上がり、ちびっ子2人を荷物のように容赦なく荷車に積み直した。彼らは不意に良心の声によって、自分たちがどんな場所にいるのか、そしてどんなことをしてしまったのかを知った。

 最初に口を開いたのはブーテ家のエマだった。彼女はジュリーに言う。

「こんなに遅くなるって言ってくれてたら私来なかったのに」

 ジュリーは弟に言った。

「あんたのせいよ。あんたが言い出すことってこんなのばっかり」

 エマニュエルが言い返す。

「ならぼくは車を引っ張らないよ」

 激しい言い争いになった。ブーテ家のルイは女の子たちをじゃじゃ馬娘呼ばわりした。

 彼女たちはとても疲れていたけれど、二人とも梶棒係をやらなければならなかった。車輪の軋む音を聞いてちびっ子たちは泣いていた。車がこんなにもうまく進まないなんて! 彼らは街道に戻ってきたけれど、その道がこんなにも長いなんて! ジュリーは男の子たちに向かって叫んだ。

「ああもう、こっちに来て手伝ってよ!」

 彼らはまるで聞こうとしなかった。エマニュエルはさらに苦しめようと、こんなふうに言った。

「きっと、パパがまたベルトをぴんと張ってひっぱたくよ!」

 結局、ブーテ家のルイが姉に並んで梶棒を持った。ジュリーは明いた暇を活かして生垣から桑の実を集めた。ある考えが思い浮かんだのだ。ジャムを作るために桑の実をお母さんのところへ持ち帰れば、一日を有効に使ったことを示せるし、遅くなったのはこの作業を行ったからだと言える。たぶん、ひっぱたかれずに済むはず。

 ジュリーは長々と作業を続けた。他の子たちは彼女を待たなければならなかった。彼女は走って彼らに合流した。

 彼らはやっとの思いでキャトルムーランの十字路にたどり着いたが、夜の闇の深さに驚いた。道はまだまだ長い。通ってきた道をそのまま引き返さなければならないのだ。泣いたのは荷車の中にいるちびっ子たちだけではなかった。大きい子たちもちびっ子たちを運びながら泣いていた。けれども速く歩くうちに、泣いている暇さえなくなってしまった。

 玄関に着いたときには、もう八時を過ぎていた。あまりに遅かったから、親たちは何も見えないだろうと思って、わざわざ道に出ることもなかった。子どもたちはできるだけ音を出さないようにし、だれも最初に入りたがらなかった。それからやっと、エプロンに桑の実を入れていたジュリーに勇気が出てきた。

 彼らはひっぱたかれそうになる前からわんわん泣いた。けれども意味はなかった。ラルティゴはベルトを構えた。母親は二人のちびっ子を抱きかかえた。

その小さな足はすっかり冷たくなっていた。ブーテ家のエマとルイは逃げ出して自分の家に帰った。初めにひっぱたかれたのはエマニュエルだった。父の手から離れたにもかかわらず、今度はちょうどちびっ子たちを床に下ろした母の手に捕まった。

 子どもたちは溺れたと思われていた。あと十五分もしたら、警察に知らせに行くところだった。この辺りは水が深いところが多いのだ! しかし、それでも両親が子どもたちに不幸が訪れていないと信じることができたのは、だれに尋ねてみても、一人としてあの荷車を見たという人がいなかったからである。

参考文献

Charles-Louis PHILIPPE, Dans la petite ville, LA CHARRETTE, Bibliothèque Charpentier, 1910. (Bibliothèque nationale de France, 2007)
URL: Dans la petite ville / Charles-Louis Philippe | Gallica (bnf.fr) (参照: 2023/10/12)
※ ご利用の環境によっては正しく表示されない場合があります。

シャルル=ルイ・フィリップ, 山田稔 訳, 『小さな町で(大人の本棚)』, みすず書房, 2003.

コメント